若林亜紀という物件
「行政改革」が中曽根一流の扇動の装置だったことに、気がつかない人、気がつかない振りをしている人が多すぎる。国労の衰退と動労の転向が中曽根の狙いだったし、森喜朗や中川秀直は、日教組と自治労を解体するのが狙いだとも言っている。
「サヨク」「アカピ」「ちょうにち」とののしられている朝日新聞だが、9.11のときにもテロとの戦いに参戦しかねない社説を書き、いまや、「少しばかり『リベラル』な産経」となりつつあるのではないか。『AERA』も同じことだ。そして、12月のTVに売れっ子として出ていた「ジャーナリスト」若林亜紀こそ、そういう時代の申し子だろう。
「独立行政法人祭り」「公務員祭り」――まったく2ちゃんねるの「祭り」と同じだろう――の中でも、彼女の地金が出たのが、都市再生機構をめぐっての12月4日の次のような叙述だ。
「愛知県保見団地では9000戸中4000戸が日系ブラジル人です。低所得者や身障者向けだから公金投入という理屈は通りません。」(渡辺大臣がんばって!2)
どこをどう見たって、日本人の劣情のような憎悪を煽り立てる文章ではないか。日本人のジャーナリストが日系ブラジル人について言うから、見逃されているのだろう。もしドイツのジャーナリストが、ドイツについて「トルコ人、ギリシャ人が~」とやりだしたら、レイシストとして逆ねじを食らうのは眼に見えている。URは、すでに1980年に国籍条項を撤廃している。
「入居の条件を満たしていますが、何か?」としかいうはずのないことだろう。入居後のマナーの問題はもちろん、あるかもしれないが、それはまた別である。日系ブラジル人の入居ををことさら問題視するのはいかがなものか。そして、保見団地については、URのHPでもわかるが、いわゆる億ション物件ではない。
もちろん、若林のブログで触れている都内の高級物件についての、外国人エリートビジネスマンへの高級住宅の建設が本旨ではないはず、というのは正しい。ただ、それは、「エリートビジネスマン(⇔ワーカー)」「高級住宅(⇔良好な住環境を満たす程度かそれより少しよいもの)」というところに力点を置かれるべきであり、中~低所得者向けの住宅の充実は、元ゼネコン社員で宅建保持者の彼女が夢想するような市場では無理だろう。かつて、早川和男が『住宅貧乏物語』で説いた、基本権としての居住権は、20年ほどたった今、見事に忘れられている――。
それにしても、若林のデビュー作『ホージンのススメ―特殊法人職員の優雅で怠惰な生活日誌』の腰巻に文章を寄せた佐高信はいったい、何を考えたのだろう。彼が推薦文を書いた新人はいまや、猪瀬直樹を支持し、行革イデオロギーを撒き散らしている。
外交官だった天木直人もやはり若林を支持する。官僚組織への批判で共通するところがあると考えているのだろう。しかし、若林は、イラク戦争反対を言っていたのはいつのことやら、いまでは、渡辺喜美にすりよるような考え方の持ち主ではないか。
渡辺は護憲派でも、イラク反戦派でもない。それどころか、神道政治連盟や日本会議のメンバーである。彼女は、安倍内閣発足時も行革に期待し、イケメン首相には甘く、タウンミーティング問題が明らかになるまで教育基本法には口をぬぐっていたのではなかったか。当時、まるでブレヒトの『第三帝国の恐怖と貧困』に出てくるウィーンの市民のような絶望感を持って事態を見守っていた一人としては、腹が立つ。こういうしかない。「若林さん、あなたが安倍内閣をあれほど増長させたんだよ」
知り合いの、あるジャーナリスト(これは本物)が、マスコミの早稲田閥を呪っていたのを聞いたことがある。彼によれば、学生の時分から一流マスコミでアルバイトしてコネつくりに余念がない早稲田の人間こそ、たいしたことない腕のわりにペイのいい仕事を独占している特権階級とのことだったが、何、三田のほうにも似たような人がいるということだ。
どうやら手紙を書くと必要があるらしい。書き出しは――
佐高信さん、いまでも、若林亜紀さんを支持しておられるのでしょうか。今後、『ホージンのススメ』が文庫化されるときも佐高さんの帯がつくのでしょうか。
彼女の最近の発言を見る限りあきらかにおかしな方向にかじを切ってしまっています。ブログではレイシストまがいの発言まで見られるではありませんか――。
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